執筆者プロフィール
曽我部 貴司(そがべ たかし)
株式会社未々乃介代表取締役文学部 卒業1996文
曽我部 貴司(そがべ たかし)
株式会社未々乃介代表取締役文学部 卒業1996文
「ご馳走さま、美味しかったよ」「ありがとうございます、良いお休みを」商品を提供し対価を頂く。経済活動としてはそこで完結しているけれど、飲食という仕事の醍醐味は、こんなひとときにある。
悩み多き面倒な学生だった。人とは何か、生きるとは何か。自分への問いばかりを抱えた日々。そんな僕に日吉や三田の風はやさしく、多様な刺激を運んできてくれた。
それでもどこか足りず、同級生達が社会へ踏み出していく中、他人事のように眺めていた僕は、フランスで感化された料理の世界に飛び込み、感覚と根性に頼る厳しい下積みを経験する。その折々にも塾の風は吹き、僕の能力や可能性に下駄を履かせ、助けてくれた。
社会と折り合いがついた頃、父子家庭の父としての時間が始まった。自分のことは後回しにせざるを得ない日々。「自分の人生とは」という問いはどこかへ消え、ただ目の前の生活を回すことに明け暮れた。あの嵐のような時間もまた学びとなった。幸いにも周りの方々に大いに支えられ、子供達は成長。子離れの時期を迎え、翻って自分は社会に対し何を返せるのだろうか、と考えるようになった。
僕は飲食の世界しか知らない。しかし、現場で料理をつくることと、この事業の構造を捉え言語化すること。その両輪で新しい価値を創造できる──自問を重ね、多少の自惚れも含めて、世の中のお役に立てるとしたらそこしかないと、残りの人生を賭けてみることにし、株式会社未々乃介を設立。
現在、飲食のコンサルティングを行いつつ、北総エリアでキッチンカー「みみのすけ」を運営、地元の優れた農畜産物を用い、進化させた豚の生姜焼きとジンジャードリンクを提供している。地域に賑わいや繋がりを生み、新たな名産へと育てていくことが目標。キッチンカーは経営的には必ずしも最適解ではないが、理屈だけでなく現場を持っていることが強み、と外向きには語っている。だが本音は単純で、お客様とのやりとりがただ嬉しいからだ。地域創生という大きな理想を掲げつつ、その時間を楽しませていただいている。
11年前に林で拾った子猫に「まだまだの男」という意味でつけた「未々乃介」は、会社とキッチンカーの名になった。あの林で感じた薫風も、キャンパスでのそれと、どこかで繋がっていたのかもしれない。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。