執筆者プロフィール

谷口 尚子
法学部 政治学科教授(政治理論・政治社会)
谷口 尚子
法学部 政治学科教授(政治理論・政治社会)
「みんなが政治的決定に関わることのできる『民主主義』は素晴らしい」―― 学校ではそんな風に習ってきたのではないでしょうか。しかし実は、民主主義ならば自動的に良い結果が生まれる、という保証はありません。民主主義が適切に機能するかどうかは、主権者である「私たち」の考えや振る舞いにかかってるといえます。
主権者自身が政治的決定を行うことを「直接民主制」といい、地域自治や国民投票にその要素を見ることができます。しかし現代は国や自治体の人口が非常に多いため、主権者が選挙で代表者を選んで政治的決定を委任する「間接民主制」が、幅広く見られます。
この間接民主制のあり方に関して、「本人(プリンシパル)―― 代理人(エージェント)」理論というものがあります。民主政における「本人」とは私たち主権者であり、「代理人」とは本人の利益を実現するために選ばれた政治家や政党と考えます。つまり、私たちこそが民主主義社会の主人公であり、政治家・政党という「ポケモン」を育てる「トレーナー」なのです。自分達がまず優れたトレーナーになろうとしなければ、良いポケモンも育たないといえます。
とはいえ、例えば日本でも、代表を選ぶ選挙の投票率が低かったり、真偽の定かでない政治情報についてインターネットで混乱が生じたり…ということがありますね。また、貧富の格差、地域間の格差、男女間格差、国際関係・安全保障、あるいは人種・宗教・環境などの様々な問題を巡って、意見や利害の対立もあります。政治的無関心や不信、世論対立は、今や民主主義国家共通の課題です。民主主義社会では、多様な意見や利害を選挙・政党制・議会政治などの制度や仕組みを通じて集約し、法を作っていきます。民主政をうまく機能させるには、こうした制度や仕組みが適切であることも重要です。したがって政治学を学ぶことは、いかにして優れたポケモン・トレーナーになるかだけでなく、そのゲームについてのルール(制度や仕組み)をいかに適切に作り、守り、改善するかを探求することともいえるでしょう。
慶應義塾大学法学部政治学科には、①政治思想、 ②政治理論・政治社会、 ③日本政治、 ④地域研究・比較政治、 ⑤国際政治という5つの分野について、基礎から応用に及ぶ80以上もの科目があります。また、演習や特殊研究、研究会(ゼミ)などの少人数授業も数多く設置されています。福澤諭吉の「半学半教」の精神に基づく教員や仲間との議論、また「人間交際(じんかんこうさい)」の経験は、皆さんの一生の財産となるでしょう。そして、大学院の修士・博士課程に進学し、政治・行政・社会・国際関係・アカデミアの世界で活躍する専門人材も数多くいます。包括的かつ大規模な政治学教育を行う国内随一の機関といえる本学科で、皆さんが思う存分学んで社会に飛び立っていくのを、教職員一同、心より応援しています。
(掲載:2026年4月)